甲州印傳~上原勇七

店主が、自分のお金で、父にこれならばと贈った品物は、印傳の草履でした。


父は津軽民謡の歌手「二代目今重造」といいます。
若い頃から才能を世に認められ、素直な性格も幸いし、先輩達に可愛がられ、様々なことを教えてもらったそうです。そのせいか、人付き合いのあり方や、身なりに言動と、先輩達に大いに磨かれて、父は美意識が高い人でした。

社会人となり、給料ももらう身となったところで、ちょっと背伸びしたものを贈りたいなと思い立ち、これならばと見つけたのが印傳の草履。

 

あれは、紺地の鹿革に、黒漆の瓢箪柄。

店主の予算をかなりオーバーしていたのですが、これ以上に父に相応しいものが無いと思うほど気に入って買った草履でした。

父は随分気に入って、長いこと履いてくれたと母から聞きました。

舞台では涼しい顔をしながら、着物の下は大汗をかいて唄っている父。

足袋を通して汗で湿ると、草履の紺が足袋に移り、真っ青になってたようです。普通なら、足袋がダメになるのを嫌がるものなのですが、それでも履き続けてくれたことが、娘としてはうれしかったものです。

確か、25年前のお話。

その頃から、大好きな印傳。

 

 

お客様には「日本のエルメス」なんて冗談を言うこともありますが、我ながら言い得て妙かなと思っております。例えば、鹿革は柔らかく、縫製の際に伸びやすいので、印傳の縫製を頼める職人さんは、浅草でもトップレベルの方なんだそうです。

使うほどに手馴染み良くなる革製品、印傳は革は柔らかいですが、型崩れしにくい作りになっており、長く使える工夫が随所に見られます。

いいものを、長く使う、そんなキーワードを大事にしている方に、お使い頂きたいし、大事に思う方への贈り物に、ぜひお選びいただけたらと思います。