【雑記】漆、日々の取扱いについて

漆器の取扱いは「あれはダメ」「これはダメ」「それもダメ」と

禁止事項が前面に押し出されたような説明が多く、扱いが難しいとか

面倒なものだからおいそれと所有してはいけないという感覚の方は

未だにたくさんいらっしゃいます。

 

ところが、漆器を愛用されている方は、

それほど手間が掛かると感じていない方が多いというギャップ。不思議です

 

実際、漆器は高価で特別なもの(美術品)もあれば、

日用のものもありました。

日用の漆器はそれなりに気を使わずに扱われましたし、

傷もついたり欠けたりしていたものです。

 

よく言われるのは「肌と同じ感覚でお手入れして欲しい」ということ。

これは言い得て妙な表現かと思います。

 

うちのお客様のお宅では、何年かごとに修理に出していたとかで、

修理している期間に使う分とで、ひとり2組の漆器を

使っていたご家庭があります。

 

今どきだとかなり特殊な例だと思いますが、

「使っていればその内傷もつく」

「傷の具合によっては修理が必要にもなる」

「修理すればまた使える」

「修理するにも時間が必要」

その辺りをよくご存知のご家庭なのだろうと思います。

 

ちなみに、店主の子どもの頃の記憶だと、

祖父母の家ではしじみの味噌汁も普段使っている塗り椀で

がしゃがしゃ貝殻の音がする感じで気にせずよそって出してました。

もちろん、椀の底の塗りがはげてたり、

雑な使い方をしていたのを思い出します。

 

(そのくらい、ありふれた食器のひとつが漆でした)

 

傷がつくことに関しては、当たり前に想像力をもって

扱いに注意していただけたらと思います。

 

漆は固い金属ではありません。

天然の樹脂、分類としては、いわゆるプラスチックです。

固いのが当たると削れますから傷がつきます。

ふきんで水につけながら撫で洗うようなことを

書かれている本もありますが店主は塗立に拭き漆なら棕櫚たわしで洗っています。

ピカピカした艶がある仕上げだと、極力傷をつけないように

布で優しく撫で洗うのを推奨します。

 

傷をつけてしまってがっくりきたら、

塗りなおしてもらうことも出来ますから、

あまり神経質にならないように、と思います。

 

余談ですが、

洗剤もほとんど使わなくても油汚れが落ちやすいのが漆の素敵なところです。 

洗剤で手荒れする方には、漆はとてもおすすめな素材。

 

洗ったら、拭いて水気を取ることをおすすめします。

木綿の乾いた布で拭くと艶が出ると聞きますが、

つまりは傷がつかないような柔らかい布で

乾拭きしているうちに艶が増すということです。

 

私は、実は鏡面のように磨かれた艶よりも、

艶が出始めた頃の薄雲った艶の状態が

真珠のような美しさを感じるので好きです。

塗り重ねられた漆の層が、それぞれ光を反射するような、

穏やかな艶が大好きです。

 

戻って。洗った後は、カルキが悪さをするようで、

拭かずに自然乾燥という放置を繰り返していると、

そのうち水気が留まりやすい場所に白く粉っぽいものがたまることがあります。

 

これが落ちにくくなるほどたまるとなると

相当ずぼらを繰り返した証拠なのですが、

そうなる前に、洗ったら拭いて片づけましょう。

1回2回放置したところでダメになることもないので、

心掛けて下さい、ということです。