夢殿先輩と摩利の関係もずっと気になっている。
摩利の死を知る頃、夢殿は若気の至りと思えるようになっていたのか、それとも摩利を惜しんで悲しんだろうか。
中学高校の頃は、もう肉体関係もあるなら夢殿でいいじゃん!ぐらい思っていました(笑)
漫画の世界では、登場人物が多いと、丸めて終わらせるためか、ほだされて流されてみんな誰かとくっついて幸せになるという都合のよいオチが多かったし(笑)
いまは、「終わり良ければ全て良し」なんて、誰かが折れて譲らないと起こり得ないことが現実には多いと分かるので、ファンタジーかと。心が乗らないようになりました。
この頃の木原敏江先生は「人生は思い通りにならない」を描き続けることをライフワークにでもなったのかというぐらい、切ない話が増えた記憶。
摩利にとっての夢殿は、そこに納まれば「楽に」幸せになれる相手。
摩利は男が好きだが、自分が女になりたいとはこれっぽっちも思ってない。慎吾がひたすら特別な存在として強調されるのですが、当時の読者の中には、「慎吾のどこがそれほどいいのか?」という疑問が出ていたな…(慎吾の良さは、50代になった私には理性的に分かる
正直、その辺り、私もそういう関係性の人に出会った事がないし、周りでもそういう関係性で離れがたくなっている人達を見た事がないので、言語化しにくい。発達障害が年々分類が細分化されて、ADHDだの名称が増えたように、好きの種類に分類名がつけられるような世の中になれば、私もスッキリできるのになあと思います(誰か分類定義して名称つけてくださいw
夢殿は、摩利を男として好きでいてくれるし、友達や先輩後輩、競争相手、いろんな役割をこなしてくれる男性。滅多に出会えないいい男。それぞれ妻が出来ても、夢殿は摩利を手放さないだろうし、摩利が心地よく感じる距離感で付き合い続けられたと思う。
夢殿のことは、最初から怖い人だなと思っていたんじゃなかろうか。
誰もが摩利の事を注目するが、それは上辺の美しさや、上辺の精神性を見てのこと。
夢殿は摩利の内面を見ている人だから、摩利もそれに気付いて見透かされる怖さを感じていたと思う。自分の本質が陰で、外に出しているところがきれいな分、内にこもった闇の深さ。人に、特に慎吾に知られたくない。自分が劣っていると思っている部分だもの、見られたくないのは当たり前。
夢殿は、その闇も含めて摩利の魅力と思ったし、摩利の複雑さが面白かったのか。こいつ、この先どうなるんだろうかと、興味がわいたのだろうか。放っておけない程度に知り合ってしまったから、どんどん危なっかしい精神バランスに陥る摩利に、段々と手を差し伸べないではいられなくなってきたんだろうか。
夢殿は蠍座設定だから、闇は闇なだけで、悪と断じるような単純な世界観は持ち合わせてない人。本当に、摩利にとっては、滅多に出会えないいい男。
子供の頃から春日家の跡取りとして周囲からの期待も理解していたろうし、その事自体は家族としての責任を果たすような感じで受け入れて育ってきたのではないかと推察。結婚は政略結婚、相手も決まっている、跡も継ぐ。自由はないが、見極めてながら、通せる我は全部通してプラス思考の人生といったところか。
私が鬱の時に、救ってくれた一人も蠍座の方でした。
仕事先で知り合った方で、職場での会話以外の付き合いは無し。
つまり深い関係性は全く無かったと思うのですが、一番鬱の動揺を抱えていた頃に、何度も短い電話をくれたのです。
「おはよう、今日の調子はいかが?食べた?寝てばっかじゃだめよ」
鬱の真っ最中は、やる気が起きないし一人でいたい、世界が内向き。
電話さえも邪魔に感じていたのですが、蠍座の彼女は電話をくれたのです。
後日、何故あの時に電話をくれたのか聞くと、「私も鬱で辛かった経験があるから、一人にしちゃいけないと思った」と言われました。私が全てを拒絶するのは目に見えていたので、彼女は電話を掛けることで、つなぎとめようとしてくれました。私が切った接点をつなぎなおしてはまた切られ。蠍座の愛は独占とよく言われますが、そういう強い感じは上っ面の話で、人の心の闇にしみわたるような優しい愛だと私は思っています。
摩利が、夢殿先輩はどこかしら父様に似ていると認識する辺り、摩利が欲しい形の愛をくれる人だと分かってきたのではないかなと。夢殿との幸せに落ち着く選択肢は、読者が摩利の幸せのために、あって欲しい選択肢。おや、気付き始めたか?と少しホッとした場面です。既読で、後々そんなことは無いと見えていても、次善の選択肢があったのは、物語的に救いに見えたものです。
そういえば、先日妹と選択肢について雑談した時に、彼女が「ショボい選択肢がたくさんあっても選んだ結果に満足できると思う?」「それしか選択肢が無くても、その一つがこれしかないと思えるなら、満足して選ぶかもね」みたいな話をしてくれて、選ぶ自由と幸せには因果関係が無いという結論が、わたくし的に心に刺さっており、反芻ネタ。
慎吾は、欧州での出来事に至るまで、夢殿の摩利への思いの深さに思い及ばなかったのではないかなと思う。夢殿の本気を感じて、ちょっとホッとしたんじゃないかなとも思う。だから傷心の摩利に夢殿が構うのは、嫌だと思わなかったんじゃなかろうか。普通、近しい人の肉欲絡みなんて知りたくないものだけど、夢殿から告げられて止めるでもなかった様子。それとも、自分が口を出す資格は無いと思ったか…
夢殿も、日本ではない欧州の地だからこそ、家や世間体を気にせず振舞えた分、摩利への気持ちはストレート。期限付きの自由。国に戻れば政略結婚。
紫乃が亡くなった時、麿が「友達はたくさんいてもみんな夢殿さんには役不足、対等に語り合えるのは紫乃さんぐらいだった(意訳」と言っていたぐらい夢殿の内面は、目指すところが若者らしさを越えていたから、同年代も計り知れないところがあったかと。
同年代より大人な精神性、交わり満足できる相手が少ないということ。摩利は、夢殿から見たら紫乃並みの人を見る目がありながら、恋愛対象としても優秀。そこらの令嬢より飛び抜けて特別な存在。雅やかな公家の血筋、誇り高い心。誰もが望める相手ではないし、人によっては混血児だから価値を見出せない存在だけれど、夢殿にしたら、美しい外見と内面を持つ希少な存在。そりゃ、執着もするか。
元々の立身出世欲もあり、かつ、摩利の理想が恩音のような清濁併せ吞み底知れない大きさの大人と知れば、そこを目指さぬ法は無し。異母兄弟に跡取りを譲ることも出来るし、もっと自由で緩く生きる方法も知っているが、自分から跡取りの責と権利を捨てる気もない。自分にとっての損得勘定しっかりめな人が夢殿。でもギリギリになると、損しても摩利との関係が大事と動く辺りが真心。
慎吾がドリナとの恋に落ちてみて、初めて摩利の我慢し続けてきた恋情の深さと自制の強さに気付けたと思うし、自分の存在が摩利にとっていかに残酷なものか分かったはず。それでも男色としては受け入れられないんだと明確になった。でも摩利は唯一無二、誰にも渡したくはない。はて複雑。摩利にとっての慎吾の存在も言語化しにくいが、慎吾の愛や好きも私には言語化しにくい。
摩利の絶望の深さが、そのまま欧州に留まることを決めさせ、慎吾とも夢殿とも別れ。
関東大震災の報を受け、死なれるより生きて会える方が「まだマシ」と思えたから帰国を決めた摩利。
慎吾にも、同じ様に自分が死にかけて「やっぱり摩利に会いたい!」と自覚した転機があった。
あの時慎吾は両親を事故で亡くしたばかりで、いつもそこにいるのが当然だと思っていた親友だって、死んでしまったらもう会えないと想像し、喪失の恐怖。さっきまで胸を塞いでいた悩みが、答えが出てなくともどうでもよくなるほどの衝撃。本能的に、やっぱり摩利が大事だと悟った瞬間。
青太や篝しかり、死んで花実が咲くものか。
死に触れるたびに『ただ生きていてくれるだけでいい』と思うようになる。期待したり、押し付けたりしなくていいと分かる。
私は、妹が肺がんで死ぬかもしれないと思った時、まさにこれを体験しております。妹だけでなく、友人知人、誰しも、ただ生きていてくれさえすればいいと思えました。遠くでもいいから、生きていてくれたらと願うようになりました。そう思えるようになったら、人間関係がうんと楽になった気がします。
私は楽になれたけど、でも摩利の場合は、会っちゃうとまた手に入らない現実と向き合うことになる。でも死んでいなくなるより「マシ」を知ってしまったから、苦しいけれど慎吾の傍にいる時間を作る。
摩利は可哀そうだなと思う反面、慎吾が摩利と一緒にいたいと思い続けるからこそ、摩利もいつまでも恋情抱えて執着していられると思うので、そういう相手に出会えて、どこか羨ましくもあり、慎吾のせいでと責めたくなる気持ちもあり。
「その後、摩利は崩れることなく」とあったので、夢殿とは時々プラトニックなやり取りはあったとしても、ほぼ先輩後輩で過ごしたのではないかと想像。
紫乃が亡くなってからは、紫乃には及ばないながらも、心中を吐露する相手になったのではないかと妄想。もちろん言えないこともある。でも、ひと時傍にいて、じっと聞いてくれる相手はありがたい。損得なしで聞いてくれる相手、ちゃんと心を理解しようと聞いてくれる相手。さすが摩利だと認めた相手。
夢殿さんは、紫乃がいた頃は、あまり語らずとも胸中を察してくれる紫乃が受け止めてくれたから、だいぶ助かったことだろう。その紫乃の抱える異母姉への恋情を、慎吾だけが知っていたということになっているが、みなまで言わずとも、夢殿は察していたろうと思う。
何で家に帰らず、ふらふらと遊び歩いて見せるのか。誰のことも本気で好きにならず、かといって女が嫌いではない紫乃。家業を嫌うどころか、舞には真剣、美しく舞う紫乃。帰らぬ訳、一人に決めない訳、分かりやすい。
摩利の死後、「ああ最後まで、”きれいな摩利”で逝ってしまったな」と静かに悲しんだと思う。
夢殿さんは、その頃には、抱える責任が学生の頃とは比べ物にならない政治家、戦後処理もある。
悲しみだけに没頭できない大人は、それはそれで悲しいんですけどね、多分そんな感じだろうなと思います。
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追記:
日本を拠点に生きる夢殿さんは、慎吾を通じて何とか摩利とつながっていたいと言っていたのに、二人とも一度に亡くなってしまった。夢殿さんは、摩利との思い出を語り合える相手ごと、摩利を失ってしまったのだなと思ったら、切なさが倍増しぐらいに感じられ…
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