漆のお箸 いつもを見つめ直す

お箸は気分で使い分けるので、竹箸と塗り箸と、5膳ほど持っているわたくし。

 

最近お弁当用に毎日持ち歩いているのは、赤い若狭塗のお箸。私は小さい頃から長い箸が好きで、このお箸だけ、短い女箸サイズ。母が、買ってくれたお箸。

 

私は、人生の節目にリセット癖があり、例えば会社を辞めて2年間貯金を取り崩して暮らしながら、悶々と自分探しに励むような、切り替えが下手でした。

 

 

母は、最初はひと月もすれば落ち着いて、次を探すだろうと思っていたようですが、3ヵ月、半年過ぎても立ち直る気配が無い娘に不安を感じたことでしょう。

私が「赤いお箸で食べたい。赤なら元気出るかもしれない。」と言ったのを真に受けて、あちこち探してくれたことを思い出します。私が望む赤い色は、西洋的な原色の赤だったのですが、漆だとそんな色にはなりません。

あの時の私は、そんなことも知らなかったので、母がその中でもイメージに近いのではないかと探してくれたこの箸を見て、『やっぱり自分が望む通りにはならない世界なんだな』と思いつつ、「ありがとう」と感謝の言葉を述べた記憶。

この若狭塗の箸は、何年も使っていると漆が透けてきて、色合いが鮮やかになってきて、ある時に『あの時欲しかった赤になった』と気づきました。

 

そのぐらい使っていると、箸の塗膜の艶も、ツルツル感が増して本当に美しい色柄に育ち、手にしっくり馴染む感触に。この「吸い付くような感触」「硬いのに柔らかい当たり」「優しい手触り」何とも言えない心地よさ。母が、わざわざこれを選んでくれた事に、数年単位遅れでの大感謝。私が漆好きになれたのは、母が漆の良さを知っていて、そこに価値を見出していたからなんですよね(ありがとう、お母さん

 

お商売上、麺を食べるなら竹箸が便利と説明はいたしますが、漆のお箸でも麺は落とさず食べられます。プラスチックと違って、そこまで滑らないので、私は自分の漆のお箸でなら、コツがつかめているので、麺類も気軽に食べられるようになりました。

 

和食の行儀作法で、箸先3センチほどで食べ物を掴んで食べるというのがありますが、ひと口の量を随分と小さくしなければなりません。全部食べ終わるのに時間が掛かります。その代わり、小さい塊を口に入れる習慣がつくと、よく噛みます。一度にたくさん口に入れる方が、咀嚼が疎かになり、味わいも雑になるので味が濃いものが欲しくなり、早食いになりダイエットにもよろしくないと今は思います。

食事にゆっくり時間を割ける人は、案外少ないです。

お勤めしていたら、昼休憩は時間が決まっているので、時間内に食べ終わるタイムトライアル。子育てしていたら、夜ご飯食べたらすぐお風呂入れて…と寝かしつけるまで怒涛。私なんて、一人暮らしだったのに、残業して深夜帰宅、睡眠時間を出来るだけ確保したいので、食事や入浴が雑になるのが当たり前でしたから。


最近、足の甲の靭帯が一部老化で損傷し、そのせいでイメージ通りの速度で歩けない体験をしております。足は、常に体重が掛かるので治りにくいのだとか。長く自分の足で歩きたいなら、老化と付き合い、体の動かし方をそれなりに変えていくべきと諭されました。そう言われても、すぐにこう変えたらいいとは浮かばないもの。これまで、いかに無意識にお任せで、自動で歩いていたかがよく分かりました(日々、観察中

世の中はお盆。お休み。

ある程度、ひとりの時間が持てるようなら、私の箸使いや足の老化現象みたいに、自分の「今」を把握しつつ、今のままでいいのか、どこか変えた方がいいのか、見つめ直すひと時が持てたらいいなと思います。

 

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老化対策。

速度を落として、時間を掛けて一つ一つをやる、そんな方向性しか見えません。

 

40半ば過ぎた頃から、1日にやり遂げられる量が減った感覚はあったのですが、進行しちゃって1日1つもあやしいほど(苦笑)それは頭の回転のせいと思っていたのですが、体も同様に老化していたのが分かり、ショックはショックでございます。

 

でも、それは当たり前、誰にでも起こること。優しく受け止めて一緒に過ごしていくしかないのです(笑

 

私の赤い若狭塗のお箸のように、劣化したら美しく滑りにくくなることだってあるのだからと、自分を励ましております。