18世紀のヘアスタイリング

翻訳の日本語がとても読みやすい本でした。

映画や漫画で見る、マリー・アントワネットの髪形は、地毛ではありえないと思っていたのですが、その疑問が随分解決された本。

歴史資料を読み、当時のレシピで作り、当時のやり方で1年過ごしてみるという実践込みで書かれた本。

著者自身がやる前に、現代人の感覚で立てた予想がいい意味で裏切らるたび、それを読んだわたくしが「え!そうなの!?」と驚いたり楽しんだり、どこを開いても楽しい本でした。

 

最初は、やはり造形的に面白い髪形の作り方に釘付け。

私は、当時の装飾的な髪形はかつらなんだろうなと思っていたので、髪形を盛り上げるためのクッションの存在にまず驚きました。

ちなみに、男性はかつら装着だったそうです。女性達にはかつらは不人気だったと書かれていました。かつらをつけた女性というのは、どこか揶揄するニュアンスを含んで描かれる事が多かったようです。何故男女で異なるのか、不思議。

 

ボリュームが欲しいところに、土台として潜ませるクッション。ヘアピンを挿す時の土台にもなるもの。ボリュームの出しやすさやピンの挿しやすさは形の維持にも関わるので、クッションの充填素材は、身近なものが使われている中でも、良し悪しがあった模様。

当時の髪形は、自力で結い上げることが出来なくもないのですが、一から作るとなると相当時間を使うのが見て取れるので、腕を上げ続けて髪を一人で結うなんて、腕がプルプルと筋肉疲労で痙攣しそうです。手早く美しく仕上げてくれる髪結いは、無くてはならない仕事だったんだなと感じました。

ちょっとお出かけを・・・なんて思ったら、今の女性の何倍も労力掛けて用意しなくちゃいけない訳で、きれいな格好している人は、やはりそれなりの財力が求められる訳で、庶民の方はどうだったんだろうかと気にもなるところですが、庶民の方々も流行を追える方達は同じように髪結いしていた模様。

 

1780年頃、髪を縮れさせボリューム出してふわっと仕上げるのが流行ったそうで、コテを使ったカールやウェーブの作り方は、パーマ液が無い時に、は現代でも応用できるやり方だなと思い、じっくり写真に見入ってしまいました。

 

1750~1790年あたりの流行を紹介してあるので、変遷をみるのも楽しいはずです。

 

いずれの時期も、髪の美しさや衛生のために使われた「ポマード」と「髪粉」の存在が大事なアイテム。当時のレシピを元に、現在入手できる材料に置き換えたりしながら、作り方も紹介されています。頬紅とリップクリームのレシピも載ってました。

現代の化粧品の原材料は、化学物質の名前の羅列で、読めてもどんなものか理解できない印象ですが、ポマードの基材は獣脂、髪粉の基材は小麦でんぷん、と食べられるもの。著者も言及しておりますが、現代の化粧品より肌に優しいかもしれません(笑

ポマードは髪形をかっちり固めるイメージでしたが、油分を補い、しっとりさせる目的。根元から毛先へと、全体に馴染ませる感じ。そこに髪粉。細い髪にまぶすとボリュームを増すし、ドライシャンプーのような役割もあったとか。

ポマードつけて髪を櫛でとかし、髪粉をまぶして櫛でとかし。時間を置くとそれぞれが髪に馴染み、髪形を成型しやすくもなるようです。ガチガチに固めるのではなくて、櫛通りが良い状態をが完成形。

 

写真では、やはり粉をまぶすと髪色が白く粉っぽい色合いに見え、艶もあまり感じませんで、思い起こすと名画の女性の髪そのもの。後年、自然な髪の艶がもてはやされるようになるのは、この時代の髪粉があったからこそ、新鮮にも見えたろうし新しい美しさにも見えたのかなと思いました。

著者が1年間、ポマードと髪粉&18世紀の髪型を結って生活した結果、髪を頻繁に洗う必要は全く感じず過ごせたそうです。1週間~2週間ごとにポマードと髪粉をつけ直し、毎日櫛けずって落ちていく髪粉と一緒に汚れも落ちる、そんなイメージ。ホームレスのような臭いを消すために香水が発達したのだろうと思っていましたが、そんな臭いは元々しなかったことが判明です。

盛り盛りした髪形は、朝結って、夜ほどいて櫛けずる繰り返し。一度作った髪形は癖が残るので、翌朝作りやすかったとか。

実際やってみた方の体験談が、やはり一番興味深かったです。

それにしても、18世紀の髪形を結うにはせめて肩につくぐらいは長さが必要で、やってみるために伸ばしたくなりました(笑)長い髪の方、ぜひこの本を参考に、やって見てくださいな。