摩利と慎吾⑧~慎吾と一二三

慎吾は一二三と結婚し二男をもうける。

 

ドリナの時とは打って変わって、穏やかな感情の動きの先の結婚。

 

身近に最後までいてくれた女性との結婚(職場結婚ともいうのかな

 

私の20代の頃も、職場にいる時点で家柄もある一定レベル、身元は保証されていて、仕事をしながら人と成りを知り合う中で結婚していくのは、手堅い恋愛結婚のスタイルでした。

 

男の人って、結局そうなのよね…と思ってしまった(苦笑

 

私の友人知人は、同じ職場/仕事先で知り合った、そういうの多かったです。知り合うには時間も必要だし、いろんな面を見るためにもいろんな場面が必要。職場ではルーチンとトラブルとイベントが繰り返しですから、まあ当然っちゃー当然ですけどね。

 

最近、文庫本だと文字が小さいので、A5判型の完全版を改めて購入したのですが、巻末の木原先生のインタビューに、「慎吾が普通のお嬢様と恋に落ちる訳がない、それなら摩利の方が全てにおいて優れているし魅力的だから(意訳」という内容を見つけ、確かになぁと納得。

 

ドリナという革命活動家は、生い立ちや立場が特殊。今まで知り合った少女や女性達とは毛色が違い過ぎる。はだしで野道を歩いてくる姿を見て一目惚れしたなら、その普通ではない格好を恥じるでもなく、堂々とした目力に心の強さを感じ取ったのかと。非言語コミュニケーションが得意な日本人の特性を思わずにいられません(笑

 

慎吾は若くして両親を亡くし、今まで親が健在だったから知らなかった世間の荒波もざぶざぶ被る。後ろ盾のない学生の身分が、食べていくだけでも大変で、医者になる夢は叶うあてもない現実。摩利の父の援助を受けるにしても、それを返すことが尋常ではない大変さと自覚しており、どんなに掛かっても鷹塔家に報いようと思っている。やるからには一時も無駄にせず全力でやる、そんな覚悟を持って生きていこうとしている慎吾。覚悟が違うと、見るもの、精神性が変わる。

 

一二三の、何にも期待できなくなった生い立ち。

みなしごが、生きていくため、食べるために子供ながらに働きづくめ。搾取する大人、虐待。誰も助けてくれないし、守ってもくれない幼少期。どんなに孤独で不安な時間だったことか。

 

慎吾は代々御殿医の家系で良家、お金持ち。しつけが厳しくても、愛情に恵まれた育ち。それが両親の死後、人生の底辺を垣間見て、世間の厳しさを知る。その底辺で育った一二三が、それでも捻じ曲がることなく、自分に居場所をくれた一座へ、献身と愛情で接する様子がとても好ましく見えるのは当然。

 

慎吾は、両親の死後、ある意味自分のためだけに生きることは出来なくなった人だな。支えてくれる人々に感謝し、その人達のために頑張ることで報いる人生。なりたい姿、やりたい事が慎吾の中では一致しているから、そう苦しい選択ではないはず。

 

一二三は、慎吾の摩利への思いも知りながら、自分の我はおくびにも出さず、付き従おうとしてくれる。一二三の健気さは知っている。子供の頃から無いのが当たり前で、全部手に入った事がない人生だから、欠片でも手に入れば無上の喜びを噛み締められる。奪う事はしない一二三。何も望まず生きてきた彼女が、差し出せるものは自分の身一つ、それを差し出して、静かに付き従おうとしてくれている。

 

物言わずとも、その情の深さは身に滲みて感じた事だろう。

ああそうか、摩利が目指した空気や水のような包み込むような愛は、一二三が一番体現していたのかもしれない。

お坊ちゃまで世間を知らなかった慎吾が、世間を学んで、受け入れ、大人になっていく物語。慎吾の成長は、ちゃんと出会う人達と心をつなぎながらの拡大成長に思える。地に根を張るイメージ。医者を選んだ慎吾、人を助ける仕事は天職だったろうな。

 

慎吾の横には一二三で良かったなと素直に思える。
ささめと違って、一二三に対しては良かったと思えるわたくし。

おひさま慎吾が傍に残す人達は、おしなべて慎吾が愛を注いでくれたし、それを糧に幸せな時を過ごしたと確信できる。愛ある家庭だったと確信できる。慎吾は本当にいい男になっていったと確信できる。

慎吾は、亡くなる時に一二三の事も思ったけれど、後は頼むと安心しつつ、先立つことを詫びたろうと思う。結婚してからは、ずっと一二三を信頼していたと心から思う。

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摩利の仕事は駆け引きの世界で、どこか安定感がなくて、地に根を張るイメージとはかけ離れている。摩利の目指す成長は、地に根を張るよりも空中を飛翔する印象が強い。それが摩利の成長の仕方だから、いいも悪いもないけど、射手座の摩利は広い世界を股に掛け、遠くへ移動し続ける星の生まれだものな。精神的にもそういうところがあり、遠くや高み、広さ、大きさを目指して足を止めることがない星の生まれ。摩利は小さい場所に納まるような星ではなかったから、こちらも天職を得たと言えそう。