心細さの手当て

 

1月に読んだ「箱の中」「檻の外」という小説の感動から、作家の木原音瀬さんのことが気になり、次は何を読んで見ようかなと思っていたところに紹介されて読んだ漫画「キャッスルマンゴー」木原音瀬さん原作。

 

「檻の外」で、どうしていいか分からないほど感情を揺さぶられ、号泣したもので、あそこまで感情が乱れるのが今の精神状態的に辛いなと思っていたところ、ご紹介くださった方が「木原ワールドだけど、ハートウォーミングな話でしたよ」というもので、読んでみました。

 

確かに木原ワールド。

薄暗い中に射す光を描くような、夜明け前が一番暗い的な、そんな流れ。

 

読者の私は神の目線。

でも、動いていく物語を、どうにも出来ず起こるまま見つめるしかない。

 

(あ、神様って本当にそんな感じなのかもしれないなと思いました。起こることは俯瞰で全部分かる、けれど手出し出来ない。だから人間はいつの世も、思い通りにならない人生に思い悩む。なんちゃって。)

 

キャッスルマンゴーは、父親が経営していたラブホテルの名前。

 

父親は自分の事業を愛し、こだわりとアイデアを注ぎ込んで経営をしていたが急死。残された母親はラブホテル経営をしながら、二人の息子を育てます。

 

長男は、小さい頃から大人びた子。周りの大人の顔色をうかがい、母や自分達へ向けられる遠巻きな気持ちを察して、家族を守るため頑張ってきた子。子供の頃に、子供らしい感情の表現が出来なかった子。

長男は、家族や自分を守る為に心が随分頑なになっていたのですが、自宅ラブホテルに撮影に来たAV監督の男性の不器用な心に触れ、その男性から向けられた優しさに気付き、その男性に恋をし、紆余曲折の後に受け入れてもらうまでの物語。

 

主人公の周りの人間関係、AV監督の周りの人間関係が丁寧に描かれ、二人がどんな育ちをして、どんな性格で、どういう価値観で…と話の流れの中で明かされていく上手さ、木原マジック。山あり 谷あり、やっとここまで来たかなと思いきや、まだまだ山谷が続く木原ワールド。残りページが無いのに、まだ山谷作るか!とハラハラしどうしでした(これも木原ワールドの特徴かと思います

 

私がとても惹かれて共鳴したのが、登場人物達の抱える「心細さ」

 

特に、長男くんの家族思いの頑張り屋の部分が、自分と重なる部分があり、そういう時に子供はこう考えちゃうんだよなと、思いが浮かんで仕方ありませんでした。

 

自分はもう大人だと思いたい高校生の年頃ならなおのこと、「リアルな自分」と心の「こうありたい自分」とのギャップに打ちひしがれて、思いだけではどうにも出来ない現実が否応なく迫ってくる。胸苦しさと供に、誰も助けてくれないのだと分かった時に、どうしようもなく心細くなるものです。


自分が大好きな誰かの役に立ちたい、助けたい。

だけど自分には力がない。その無力感は自分を傷つける。

 

そして、自分がもっと大人だったら良かったのにと、子供は思う訳です。

 

 

AV監督は、その大人の心細さを内に秘めて生きている1人。

大変な経験をしながら大人になっちゃったから、心細さがあろうが関係なく日常を生きる心の御し方を覚えてしまい、今に至る。弱る心を直視してたら、生きて来られなかったということもあるかと思いました。望んでも手に入らない現実を見つめすぎて、望む事を止めている様子。

 

長男くんに差し出す手は、当時自分に欲しかった手を思い出して施しているようにも読めました。

私は、年齢や社会的な立場としてはAV監督側になるのだろうけれど、感情移入していたのは長男側。私は50越えてますが、家庭持ちではない分、そこらへん若い人のまんま今に至るマインドも残っていますからね。大人と子供の境目みたいな高校生のお年頃にもまだまだ共鳴できます(エヘン(自慢

友達もいる。

お客様に商店街のお仲間など、たくさんの方に囲まれ、支えられて生きている自覚はあるのですが、友人知人の関わり方では、何かが足りない場面があるのです。誰ならいいのか分かりませんが、友人知人では足りない場面は、確かにあります。

 

 

大人になったからと言って、何かが大々的に変わるものでもないのに、大人だからという理由で、不自由になることもありますよね。

大人になってからどうにも出来ない時の方が、心細さ倍増だと思いませんか?

素直に吐露出来ないのもそうだし、大人のスキルが発達すると、役に立たない思いは封じちゃうこともあります。あんまりそれを直視すると、削がれてしまうから見ない振りの術。でも、消えないから、思い出しては引っかかる。

 

AV監督氏が友人知人ではなくなり、友人知人では埋められない何かを埋める相手になっていく、その事が羨ましくて、長男に成り代わりたくて感情移入。そして、自分の中にまだ残っている心細さを再認識。

 

まだまだ秋は先なのに、季節先取りでおセンチになっているような…

一人暮らしはこういう時、自分で自分の心を手当てするしかありません。でも、自分でやることって自分が分かっているから、どうも盛り上がりに欠けるのですよね、、、(苦笑

 

実は、木原音瀬さんの小説で、二人のその後を書いたものがあると知り、発注しちゃいました。それ読んだら、この仄暗い気分が、もっと明るくなれるかなと期待しております。

 

 

 

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この作品はBLカテゴリーですが、長男くんはゲイではないけれど、この人だから好きになったんだと思える話になっており、人が人を愛する話になっておりますし、漫画表現が若干少女漫画風味なので、BLカテゴリー抜きで読める話です(おすすめしてもらって、良かったです)