自分ポジション

久し振りにショパンを聞きながら、雨の日営業。

夕暮れになると、ふと去来する思い出を反芻したりの雑記。

江古田は、のんびりした土地ですが、さすが都内だけあって、お店の出入りが激しい立地でもあります。環と同時期に開業したお店が廃業したり、新たに江古田で開業されたオーナーさんと知り合ったり、流れのある街での経営は、それなりに大変です。

住宅兼店舗で営業している、古くからあるお店でも苦戦する昨今ですから、テナントを借りてまで個人商店やってる人達は、安穏と構えているオーナーは少ないかと思います。日々何かしら試しては、経営を軌道にのせたいと努力している印象。店主も、そのひとり。

ちょっと静かな店内で、振り返ったある事。

開業当初思い描いた成功の姿と、5年経って思う成功の姿が、随分変わったなということ。


例えば、有名ブランドなど、ファッショナブルで強いカリスマ性で、向こうから押し寄せてくるような、吸引力あるブランド力、みたいなものに憧れはありました。

でも、それと違うベクトルの先に、私が提供したいと思っている商品・サービスがあり、羨んでも仕方ないと分かりながら、自分の事業の形が整わないうちは、引き比べては落ち込んだり、このままでいいのだろうかという、悩みも繰り返したなと思います。


店主の大好きな工芸やクラフトの世界は、使い手の欲しいを、形あるものに実現してきた業界。

 

今は、工業製品のメーカーの商品との付き合いが当たり前になったら、自分の欲しいものを選ぶ選択肢が増えすぎて、これとあれと「比較して」「批判して」ようやく選択することでモノを買っているような印象。

私の小さい頃は、今ほど選択肢が豊富ではなかったからか、「ここが好き」「ここがいい」という思いが強い「欲しい」を誘発して、お金を貯めて手にした時の高揚感や満足感が凄かったなと思うのです。

今は、お金を稼ぐのが大変と言いながら、昔よりずっとお金を簡単に使える時代だなと思います。食べるという最低限の生活以外に、スマホに1万超えるお金を払うのが当たり前。(批判ではなく、ものの例えです)

店主、子どもの頃の千円が、今の一万円に匹敵するイメージなんです。そのぐらい、お金の価値が下がっている気がします。いっぱいお金を使っても、裕福になれた感覚が少ないのは、お金の価値が下がっているに違いないと、本気で思っております。

いけない、横道にそれてた。

私が思うに、幸せは感じるもので、普段はどん底の気分で暮らし続けて、ある日やってきた「一生に一度の特別な幸せ」でその近辺盛り上がり、過ぎ去って落ち着いたら、また同じようにどん底の気分で暮らすのは違うと思います。

例えば、朝のコーヒーが美味しい、このカップで飲むの好き、この服を着ると気分上がるな、ぐらいのレベル、頻度の「好き」「良い」が、毎日、頻発する方が、総合的に幸せなんじゃなかろうかと思うのです。

そういう時の「好き」「良い」は、使う人の判断のみ。自分の価値観だけでOK。誰かや何かと比較も批判も不要。単純でいいと思います。

で、そういう「好き」「良い」を、自分のモノづくりで叶えて差し上げたいなと思っている職人さんが、いろんな分野でいる訳ですが、普通に暮らしていると、そういう職人さん達との出会いは難しかろうと思います。

そこを、つなぐ仕事が、小売店の立場で出来たらなと思って、環をやっております。5年掛けて、そっちよりへと進んできたつもりでおります。

事例としては、漆塗りの硯箱が欲しいというオーダーが入り、その方の持ち歩く道具や、使い勝手をお伺いしながらサイズなど仕様決めし、うちの漆器を塗ってもらっている津軽塗・木村正人さんに頼んで、木地から手配して塗ってもらい、納めたことがあります。

ご自身の思った通りのものが、思った価格で手に入ったと、それはそれは喜んでいただけたことで、こちらも感動でした。図面を引いてきた自分のキャリアが、小売の仕事でも活かせることに、とても勇気をもらいました。

その後も、鉄瓶の蓋のつまみをこの形に変えて欲しいとか、部屋に合うように〇〇のサイズ別注して欲しいなど、地味なカスタマイズ仕事を日々楽しんで承り中。もちろん、その仕事を請け負ってくれる、職人さん達とのおつきあいがあってこそ、受けられる仕事ですから、お客様と取引先の両方に、とても感謝しております。

売っているものを買ってくれたら、楽で一番儲かるんですが、それだけだと、私がつまらないのですよね(笑)私の「好き」「良い」は、どうも相手がある事柄で、発生するようです。

 

そんな気付きもあり、今では「私が提案するスタイル、最高でしょ!どうよ!オラオラ!」なんて強さを目にしても、憧れたりすることはもう微塵もなくなり、心太くこの小さな店を続けることにプライド感じていられるようになれました。

5年間のうちには、元より自信も足りない年数だから、いっぱい揺れ動きましたけど、最近どうやら、少し殻を破れたような気がしております。

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コメント: 1
  • #1

    高橋 一正  mr.audio@jcom.home.ne.jp (金曜日, 23 12月 2016 08:30)

    今夏 唐塗大椀 (黒)を求めました。
    数ヶ月の使用ですが、大いに満足しております。
    漆の感じがしっかりした感じで 良いのは勿論ですが、器の大きさ、その肉厚によるバランスが 持った時の印象を良くしてくれます。
    又、高台の高さが指を入れ易く 持った感じが 手への馴染みが良くて 落着きます。
    漆に変化が出るほどの使用ではありませんが 使用する喜びを感じていることを、
    機会がありましたら 木村正人様に お伝え下さい。

    では 良いお年を・・・