神降臨

絞り作家・小笠原晶さん。

絞りという伝統技法の美しさや面白さにひかれ、有松鳴海絞りの職人の元で修行。【滄空(そうくう)】というブランドを立ち上げ、今どきの装いにも違和感なく馴染むような柄ゆきや絞り染めをあしらったものを作っております。

 

例えば、

洋服にリフォームされた着物地は、着物らしい個性が強いと、洋服としては野暮ったい仕上がりになることがありますよね。絞りの凹凸感や、染め色も、いつもの着物仕様だと普段のファッションに取り入れにくいものです。

 

その証拠に、みなさんも普段着の中に、
そんなものを持っている方は少ないはず。


晶さん自身が、そう感じて、自分が普段の装いに欲しいと思うもの、使いたいものを作ろうと【滄空】を立ち上げたそうです。

店主、絞りの技法などあまり詳しくないので、絞り作家・小笠原 晶さんにお伺いしたところ、今回の大判ストールは「唐松」と「帽子」という絞り技法を使っているとのこと。


「唐松」は、左右対称形の柄を半分に折り、適当な間隔で縫っていき、引き絞ります。布の厚みや柄の出方を考えて、縫う間隔を考えるそうですが、機械的に一定の間隔だと、染め上がりがつまらなくなるので、微妙に針目をずらしながら縫わないといけないそうです。

縫い目が揃っていた方がきれいに上がりそうですが、均一な運針だとただの縞模様みたいな染め上がりになってしまうそうです。

目指すところは、自然の造形と同じような、ゆらぎがある自由な曲線を含む模様なのでしょうね。

そして、意思を持って針目をずらし過ぎると、これまたあくどさが出てきて、柄に面白みが無くなってしまうので、難しいのだそうです。

今回のストールには大きな唐松模様が配置されていますが、この大きさは1日で絞り終われる訳もなし。数日間に渡り、集中力を途切れさせず縫うという、大仕事だったのだなと分かります。

 

前に縫った部分との間隔を見ながら、次の針目はどこに刺すのが最適か、目で追いながら没頭していると、手が自然と次の場所を探して動くようになるのだそうです。

 

よく、神様が降りてくる(神掛かる)なんて言いますが、きっとそんな感じなのでしょうね。晶さん本人は、のめり込んでいる時間は、とても好きだと言っておりました。

今の人は、効率重視の世の中だから、仕事といえば、短時間に成果をあげることばかり望まれて、じっくり取り組むとか、納得してやりたいように進めることが、出来ない場面が多いように感じます。

神が降りてくるような気分を味わえるなんて、羨ましく感じる方がきっといらっしゃるはず。それで、「なんか、カッコイイ~」と言ったところ、「いやそうでもないんです」と意外な返事。

「作業中はジャージ姿で、目線は動かさずに(ちょっと危ない感じ)、黙々と手を動かし続けるから、傍目にはカッコ良くは見えないと思います!」


「トイレに立ちたくても迂闊に手を止めると、針目の調子が変わってしまうので、きりのいいところまでは我慢しないといけないし、あんまりカッコ良く無いんですよ」と照れ笑い。

晶さん、絞り糸を解いて、縮まった生地を広げて模様と対面する時に感じる充実感が堪らないそうです。

思った通りに出来たところを見てはニンマリし、思いがけない出来の部分を見てはニンマリしているのだろうなと想像。

江戸刺繍職人の猪上雅也さんが「ねりまクラフトーク」のトークイベントで話していたのですが、あれだけ経験を積んでいても、想像通りに仕上がることはなくて、やってみないと分からない部分というのは、毎回毎回あるのだそうです。

逆に、何でも思った通りにしか作れないとなれば、楽しくなくなるかもしれません。想像以上の良い出来が見れた時、やっぱりこの仕事やってて良かった!と思うものなんじゃないかしら…とツラツラ思った次第。

やっぱり、モノづくりの神様って、どこかにいるような気がしてきます。没頭している時は、神様とつながっている時間のような気がしてきました。