龍とそばかすの姫

※ネタバレガンガンです。

 

散文的な感想。 

 

丸めた表現やファンタジーでミラクルな展開で、夏休みの中高生向けの映画っぽい。

 

同じ監督の作品『おおかみこどもの雨と雪』を見た時も、細かい描写というより、象徴や比喩を見つけ、推して計る感じだった。大筋は描くがディテールや解釈はぞれぞれに考えさせるような、その人の心の中にあるものが反応する、余白のある表現を心掛けている方なのかなと思う。

 

1から10まで説明して欲しい人には無理な映画かもな。

5なり8なりで、分からない部分があるとしても、相手の全部は分からないものだし、自分の全部を知って欲しくても伝えられるものでもないと分かっていれば、そんなもんかと思えるんじゃなかろうか。少し優しい目で見ないと理解が追い付かない映画かもしれない。

伝えたい内容は分かるのに、好き嫌いがはっきり分かれそうだと思った。

 

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主人公、「え~!?」「わ~!」「あ~!」って感嘆符だらけの声の演技が多い序盤、何だか必要以上にわーわーうるさい気がしてイライラしっ放し。

でも、母親を亡くしたいきさつや、父との関係性、学校での立ち位置と、現状把握が終わる頃、自分の思春期を思い出した。

 

自信はないがプライドが高い。

他者の評価が気になる。

思い込みが激しく、妄想と現実がないまぜ。

繊細で些細なことで傷つく。臆病。

自分を憐れむ。他者に厳しい。

純粋で優しい。

愛し愛される相手を夢見る。

自由になりたい、いま不自由だと苦しく思う。

誰もが凄いと思うような何者かになりたいと夢見がち。

ほんとうは○○したいのに出来ない自分に対する劣等感(明日から本気出す

 

いろいろ浮かんできて、理解不能な不安定な存在が思春期だったなと思い出す。

自分を的確に客観視する言葉を持たず、言いようのない気持ちを抱えて時々叫びたくなったり、叫ぶ代わりに泣いてみたり。支離滅裂。

ああ、そうだったなと思い出せたら、友達とのやり取りでは常に感嘆符だらけの声がすとんと来たし、声を発しない父親とのやり取りやひとりの時間との

対比も明確になってきて、演出の味を感じる。

 

「U」の世界観も面白く感じた。私の世代は、固定電話から携帯電話、携帯の小型化、スマホへと、進化の過程を短いスパンで見てきているから、いつかやってくる未来として現実味を感じる。もし実現したら、私もUに登録したい(笑

いまあるSNSの問題点がコンパクトに表現されていて、それが前提となり、多くを語らずともUで見かける出来事や主人公の身に起こる出来事が腑に落ちる一方、もう一人の主人公の竜の謎が深まる感じで、うまい作りだなと感心。

竜の正体が分かった時に、予想を外してたもので、そういうことか!とハッとした。
現実世界に対して、Uは仮想空間だからファンタジーの世界。虐待の暴力が、アバターの背中の痣模様に変換されて増える、苦しむ様子とか、ああそういう事だったのかと分かったらどこか痛む感覚を覚え、切なくなった。

 

現実世界とUという仮想空間、ファンタジーの世界との行ったり来たりで話が進むのだが、徐々に現実世界側もファンタジー的な展開になっていって、竜の正体を見つけて、竜に自分を信じてもらうために身バレして、ちょっとの映像資料から場所特定し、深夜バスで高校生の女子ひとりで東京へ行かせる大人達に、それで竜に再会して竜の虐待父と対決、帰宅し自分の父親と歩み寄る…ちょっと都合がよすぎる。

 

リアリティ崩壊な妄想過多展開に違和感。

大人の脳内補正で「きっとこういう事」と飲み込む。

だって、きっと最後は幸せに終わらせたいのは見えてるし、端折ってるんだと明らかなので、未回収で気持ち悪いと言いたいが最低限「こうなればいいのに」という方向へ持っていってくれたからヨシとする。

 

深夜バスで一人で上京というのは、変だけど、私的にはネット上の誰かに呼びかけ、誰かが動いてみんなで繋がって助けられたね、という解決だと、自分で一歩が踏み出せず変われずこもってしまっている主人公が、本当に変われないからダメな方法だと思うので、不自然だろうがあれがベストだと思った。

 

失敗を恐れず、何も得られないかもしれなくてもいいから、まず行動することでしか得られないものは多い。机上の空論は役に立たない。汚れたり、疲れたり、しんどい経験の先に見つけたものの手応えの大きさが自信になる、身につく。

 

だいたい、事実は小説より奇なりな人生は普通の人でも結構ある話で、個人商店やってて人の身の上話をたくさん聞く立場になったら、その事に驚いたし、普通の人が一番面白いと思うようになった。だから、不自然だと思ったが、私の中では、起こりうる可能性のある現実でもあり、ベストに思えた。

 

すずにフォーカスするだけではなく、竜のターン、弟君のターン、黙って見守る父親のターン、と個々にフォーカスした表現したバージョンも見てみたい。弟君がさらっとした脇役だったけど、小さい子ながら虐待父への思いや亡くなった母への思いや兄を助けたい思いや弱い自分に対する思いもあったと思う。思えば、すずも複雑だけど、竜兄弟も複雑。すずはそれでも愛されて守られているが、竜兄弟は逆、虐待生活。対比は対比としてもっと表現しても良かったなと思う。

 

ああそうか、すずは、自分が愛されて守られている事を知っているのに孤独だったんだろうな。竜に自分と同じ可哀そうな部分を見つけちゃったんだろうな。どんどん妄想膨らむ(笑

 

音楽は、歌は、凄く上手で聞き入ってしまった。

また素敵な歌手を見つけられてうれしい。

中村佳穂さんの声の色の美しさは誰かに似ていると思ったら、宇多田ヒカルさんのデビュー当時を思い出した。他にない艶感、伸びやかさ、当時同年代の誰とも似ていない、誰よりも引き込まれた色だった。あの時の引き付けられた感じと、中村佳穂さんに対する感動は似ている。

 

歌詞もストーリーの解説に凄く役立つ。

私は残念ながら音楽が流れている時は言葉も音として捉えちゃうので意味が入って来ないという特殊スキルの持ち主。歌詞はテキストとして眺めてやっと理解。「歌よ導いて、どんなことが起きてもいい」今足踏みしている自分の状態は、例え悪くなろうが違う自分違う世界が見たい、維持よりマシって思うほど今が苦しいってことか。 

 

後で、HPを見て、ヒロちゃんが幾多りらさんだったと知り、キャラそのもの、上手だったな~と納得。歌唱力の高さ、間の取り方の天才的なうまさ、それがそのまま声の演技にも出てたなと思う。ルカちゃんの玉城ティナさんも素敵だった。優しい声。安心感ある。

 

私はあの中で一番友達になりたいのはカミシン。

私は迷路のような思春期だったから、自分のやりたい事がはっきりしていて直線的に向かう明るさが羨ましかったから。

 

しのぶくんは学校のアイドルだけど、若いのに老成しすぎてるな。小学校の頃からおかんのように見守り続けてきたけど、そろそろ本気出す的なかもされると、執着心強そうな男に見えて、二次創作的なこと考えて笑った。

 

まあ、みんな幸せになる方向へ。

観客の側も、いろいろあるだろうけど、問題乗り越えて、みんなで乗り越えて、幸せの方向へ。