カンタと刺子

店主は工芸・民芸なら何でも好きという訳ではありません。

その中でも、整った美しいものが好きです。

機械でなら簡単に出来そうなものが、人の手で作られた、という点がツボのようです。作る過程に興味があります。


自分は不器用だから、口は出すが手が出ないタイプ。作り手にしたら、鬱陶しい人に違いありません(笑


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カンタというインドの刺子は、日本の刺子を知っていると、緻密さの質が違うので、最初戸惑いました。

ものによっては、「子どものぬりえ」みたいなんだもん。縫い目は特段美しく揃っている訳でもないし、「思い思いに刺した」としか見えません。


素材や、時代背景、作っていたのはどんな人で、製作状況はどんなだったか、など、雨で人が少ない館内だったので、気になることをヒアリング出来て、ようやく「思い思いに刺した」というのが正しかったのだなと納得。

使い古しの布を数枚重ねて壁掛けや敷布団、敷物に仕立てたもので、そこには着古したサリーの糸を解き、刺繍糸として使ったそうです。作る手順や、刺す手順は、縫い手次第。身の回りに豊富に無いものを時間をかけて寄せ集めて作ったもの。

その時代のその地方の女性は、外へ出ることが許されない社会で、家の中で守られていたという考え方も出来ますが、家事だけに明け暮れた生活だったと思われます。

でも、それが不幸と思うのは、今の私の価値観で見た場合のこと。

当時の女性達には、それでも、家族みんなで暮らせている状態を、幸せと喜んだようなのです。カンタは、その証拠。

絵柄はどれも楽しげで美しいものを集めた風情です。
花々や動物、魚など自然のモチーフ。
王様とお妃様のようなカップル。お城。
華やかな踊りを舞う人々。
神様のような人々。

頭の中にある、理想郷みたいなものを刺したのでしょうね。


そこら辺を聞いたら、目の前のカンタに込められた女性達の心や時間が、とても愛しく感じられ、「子どものぬりえ」が家族子孫への祈りに見えてきて、温かい気持ちになりました。

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庄内の刺子は、カンタと真逆の端正な美しさ。
これが、一般的だったとしたら、私のような「
口は出すが手が出ない」人間は、ごくつぶしとして扱われたろうな、、、と苦笑を禁じえませんでした(本当に